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zoom RSS 【大酒飲みのとんがらし医者】(語り17)

<<   作成日時 : 2006/08/08 09:40   >>

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【大酒飲みのとんがらし医者・壱ノ巻】



やらせ(北風)の吹き荒ぶ寒い寒い日のことじゃった。

木の國平井川の里へ、垢まみれのぼろぼろの衣を身に纏うた
ひとりの男がやってきたと。
髪はぼさぼさ、髭はぼうぼう、竹の杖をつき首には何が入っとんじゃろか
てんてらてんに黒光りした重そな頭陀袋を下げておったげな。
いつもは悪戯ばっかでおかしゃんに怒られっぱなしの洟垂れわっぱどもも
その男を見た途端 みんなおとろして家へと逃げ散ったげな。

「にいやん、どえらいおとろしおっさんがこっちゃ向いてやってくっど
 なっとしょう」
「じゃかあし、そうひしるな」
 
ほどなく、留守番してる兄弟の家の戸口に、男が立った。
「もうし、誰ぞ居らんかの。旅のもんじゃが
 今宵一晩、軒先でも借してはくれんかのう。こん寒さで難渋しておるんじゃ」

身なりに似合わぬ、思いの外、丁寧な言葉使いじゃったげな。
にいやんが気丈にも答えた。
「おいやん、そしたらすぐ裏の畑でおとさんとおかさんがおるで
 いんでくるで待っとって」

すぐにおとさんがやってきて
「へえ、これはこれは・・・おまん、どっからきたんな、こいからどっちいくんな」
とまあ父親もおっかなびっくり尋ねたと。

「いやあ、あてものう諸国をぶらついとるんじゃ。こう見えても儂は医者での
 今晩一晩泊めてくれたら、御礼に村の病人診てしんぜるがどうかの」
「おまんが医者ってかあ。そげなあらくたい(めちゃくちゃな)話があるもんか。
 まあええ、この寒空で寝るのも体にようないで、今晩一晩だけなら泊まってけ」

 
こうして男は一晩の宿を借り、翌日の朝・・・


「もしも病人が居るようなら御礼に診てしんぜようほどに。
 急いで村の衆に伝えてきなされ。そうさな、そこの物置でも借りて診察するかの」

昔から、医者など勿論、薬も無いよな村じゃった。
数刻も経たぬうち村中が空になるほどおおぜの衆が集ったと。

一番はお蝶婆さん。もう何年も足が萎えて寝たきりじゃったが
倅が戸板に乗せて連れてきた。

男はひとしきり婆さんの皺だらけの足や腰を擦ったり揉んだりしておったが
やがて汚ねえ頭陀袋から薬研を取り出し、幾種類かの薬を調合し始めたんじゃ。
できた薬を鼻糞ほどの大きさに丸め、一粒、婆さんの口に投げ込んだ。

するとどうじゃろ、婆さんの足と腰がみるみるいごき出した。
婆さんたら、戸板を担いですたすたと歩いて家に帰ったっつうから驚きじゃぁ。
 
さあ、それからというものは、物置診療所はのう、近郷近在だけではのうて
どえらいとわいところからも、来るは来るはの大賑わい。


                                   ・・・ってことで、つづく・・・

【大酒飲みのとんがらし医者・壱ノ巻】←クリックで本館記事へジャンプ

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【大酒飲みのとんがらし医者・弐ノ巻】



さあて、物置診療所の噂はあっという間に広まり
近郷近在だけではのうて、どえらいとわいところからも来るは来るはの大賑わい。

瘧(今でいうマラリア)あおたん(打身の青痣)中気にぴっぴ(下痢のこと)
こぶらがえりやめばちこまでも、なんでもかでも治したんじゃと。

大助かりの村の衆は
「せんせ、どうぞいつまでもこの里で皆の衆を看ちゃってくれろ。
 どっこも行かんと此処でずっとこせ、おっちゃって。
 せんせ、いんだら、ほとくない(心細い)」
とまぁ、総出でせんせを引き止めたんじゃと。

「そうか、それならひとつ条件じゃ。診察代の払えぬご仁は
 どぶろくちっとと、とんがらし一握りを持って来い。さすればちゃんと診てしんぜる」

村人とこんな取り決め交わしたこの医者の名は【 瀧 文貞 】
実は、伊予宇和島藩の御典医だったんじゃぁ。
三度の飯より酒好きで、おまけに酒癖やにこう(非常に)悪い。
伊予の殿さん怒ってしもて、御典医かく首になったんじゃと。

「てきゃ(あのひと)のう、わえくちゃじゃあ。
 毎日、毎日、明るいうちから酔いさらして、とんがらしを肴にして
 股ぐらに濁酒抱えて、茶碗酒やぞい」

「そんくらいこた、しやないわ。なんし、腕がええんじゃからのう。
 殿さん診とっただけのことはあるでよ。」

「ああ見えてものう、がいにかえらしとこもあるでよう。
 このまえなんぞ、おしま婆が亡うなったときにゃ、涙ぽろぽろ流して泣いとったげな」
 
村の衆の噂話も大賑わいじゃが、文貞せんせも、今日も朝から大忙し。

「どないしたんじゃ。なに、しんどうがこわいてか。腹もにやにやするってか?
 心配せんでええ。まだ死にゃせんで。
 もちっと寿命はあるじゃろて、みんな死ぬんじゃ、じたばたすんな
 慌てんでもちゃんと儂が死なせちゃる」

せんせの評判はあっという間に山を五つも六つも越えた海岸べりまで鳴り響いたと。
平井川の集落は来る日も来る日も
他所からやってくる患者で溢れかえっとったげな。

でものう、貧しいもんばっかが多かったんでの、大して儲かりはせんかったげな。
みんな診察代の替わりといっては濁酒ちっとと、とんがらし一握りを置いていくだけ。
それもその日に飲んでしもて。文貞せんせの周りはのう、まるで造り酒屋のように
いっつも酒の匂いでむせかえるようじゃった。

飲んだせんせにゃ、だあれも近づけん。
酒癖の悪いことといったら、あたけるわ(暴れる)ろくでるわ(ひねくれる)
ひどいもんじゃぁ・・・
あるときなんざ、寺のおっさんをはったかして(はり倒して)
おっさんのかしらいがんで(歪む)しもた。

でものう、わえくちゃじゃけど、おもしゃいし、かえらし、憎めんお人じゃったげな。
文貞せんせは、患者診るのが好きなんじゃ、病気治すんが天職じゃと云うてのう
よう働いたんじゃと。

だが、ある冬の晩・・・

                                          で、つづく・・・

【大酒飲みのとんがらし医者・弐ノ巻】←クリックで本館記事へジャンプ

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【大酒飲みのとんがらし医者・参ノ巻】



あいかわらずの呑兵衛せんせでも、あいかわらず賑わう物置診療所

幾年月が経ったのやら・・・
おにし(冬に吹く西からの強風)吹ききる寒い晩の子の刻じゃった。
せんせの納屋から火の手が上がったんよ。

「火事やあ、火事や、せんせの納屋が燃えとんぞおお」
村中が上を下への大騒動になったんじゃ。

「水じゃあ、水持ってこおお、せんせが居らんぞ。せんせええ、せんせえーっ。
 どこじゃああ、どこいったんじゃああ」

燃え盛った納屋の片隅、空の酒樽抱えて焼けとるせんせが見つかった。
「せんせ、せんせえ、しっかりせえや。
 こんな火傷くれえ大したこたねえ、しっかりせんか。こら、せんせ」

大火傷じゃったげな。薄目を開けたせんせが、やっとこさ呟いた。
「どこぞにええ医者は居らんか。儂が死んだら、酒ととんがらしをお墓に供えろ。
 さすればきっと病は、治しちゃる」
それがせんせの最後の言葉じゃったぁ。

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もう二百年も前のお話じゃが
今でも文貞せんせの墓には、酒と、とんがらしが途切れることはねえんだと。


おしまい

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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
会員制でもなく、どこぞのパスワード書き込みと違って
どなたでも、書き込めるのになぁ・・・
だ〜れも聞いてくれはらしまへんのやろかのう・・・とほほ・・・
あんまり寂しいから、試しに本当に書き込めるのか
自分でコメントしてみた
確かに、コメントは出来るようだ

このお話は、熊野の山里に実際にあったお話だそうでっせ^^
弥々
2006/09/10 10:02
へっ!?
こんなトコ開設してたん!?
知らなんだぁーーーー。
ごめんよぉぉーーーー。
Gooにも最近行けて無いがなっ。
ここ2・3日は試行錯誤に時間費やしちまったしなっ(撃沈)。
まっ、コメ出来てると言えば出来てるしなっ。

【語りBar】とは何とも洒落てる☆
いつでも弥々の声が聴けるのは嬉しいが
何だか勿体無い気もする。←どこまでも貧乏症(爆)。
なんだー
2006/09/11 21:09
おぉ〜なんだー!
ここも1番コメがちみだったかぁ!!!
語り場とBarを引っかけてあるんやがのう^^
楽天ではカテゴリで『語り日記』と分けてあっても
なかなか遡って聞いていただけないし、カテゴリそのものが
気がつかない方も多いようなのでね^^
ならばと思い、録音で世話になるここに、サイトを構えましたん!
暇な時は、ふらりと立ち寄ってやぁ〜♪
コメント嬉しかったにゃん^^
弥々
2006/09/12 20:43
弥々さんの本領発揮ですね!!

なんの衒いも飾りもない…

(特に壱はそんな感じがします。あと、また聞かせていただきます)

これぞスッポンぽん?

(かといって、別にアドバイスなんてたいそうなものではありません。いつも感想です。)

それでは、今日はこの辺で・・・
モモタロウ
2007/01/09 10:25
モモさんへ
まぁ、語りBarへも、ようこそ!
ジブンが好きな作風は、やっぱ楽しく語れますからのう^^
そいでも、改めて聞いて見ると、やっぱ、まんだ抜け切れてない・・・
いやはや、お恥ずかしい・・・
次はもっとええもの聞かせられるように・・・
モモさんのお心寄せを励みといたしまする^^
ありがとうね^^
弥々
2007/01/10 19:50
 何日か前から、勝手に覗かせてもろうてます!

ドブとトンガラシ! 我々が戴く「投げ銭」みたいなものですね。
 面白い物・楽しい物があれば、皆さんにご紹介したいと思います。
http://www.sarumawashi.jp  のブログでご紹介しても宜しいでしょうか?
猿心(えんしん)
2007/01/26 14:40
おぉ・・・どんぞ、いつでもご勝手に〜♪
お構いできんが、じぶんちの便所(爆!)と思って、くつろいでってやぁ〜^^
演者さんならではの、書き込み!おおきに^^
で、ありがたいお申し出!
もう、紹介でも何でも好きにおねげーしますだ^^
うれしい書き込み、おおきに!
で、ちみのブログもいつか紹介したいもんだのう^^
博多かぁ・・・遠いなぁ・・・
関東に来る時は、なんぞ一緒にできたらええでんなぁ^^
弥々
2007/01/26 15:05
しっかり、じっくり聴いておるがな〜。
あちらこちらから飛んでくるから、忍者さん分からんの?

ひとしお感慨深いものがありまする♪
眼でじっくり言の葉を掬うのもええが、
お話を聞かせていただくと、これまた違ういい味がでますな〜。

年を重ねるほどに円熟されて・・・。
ええもんどすな〜。
高みに向かってのぼりゃんせ〜☆
ミミ
2007/09/21 14:36
ミミさんへ
忍者さん・・・はて???さっぱりわからんがぁ・・・
お聞き頂き、恐縮っす^^
年を重ねることは・・・大好きですねん・・・
ただ、その重ね方にこだわりたいがのう^^
弥々
2007/10/07 23:09

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